不安障害

不安とは何であるかという問いに明確に答えることはとても困難です。「なんとなく落ち着かない感じ」とでもいえばよいでしょうか。精神医学辞典では、不安とは漠然とした未分化な怖れの感情と記載されています。はっきりとした対象を怖れる感情を恐怖とし、対象のはっきりしない怖れの感情を不安であると考える、これが一般的な定義(?)です。このようなある意味哲学的な問いはさておき、臨床上用いられている不安障害という診断について簡単にまとめておきたいと思います。  フロイトは不安を神経症にみられる基礎的中心的現象として捉え、神経症の中核群を不安神経症と名付けました。現在でもこの不安神経症という診断名は一般的にもちいられていますが、現在の国際診断基準にはもはや神経症という概念がなく、不安を主病像とする障害をまとめて不安障害と診断することになっています。その内容を大まかに分類すると、広場恐怖、社会恐怖、視線恐怖、醜形恐怖などの恐怖を主病状とするグループと、特定の恐怖対象はないものの絶えず不特定多数の事柄に不安を感じすぎてしまい慢性的な自律神経の過緊張状態が続いているグループに分けられます。さらには、突然の不安発作(パニック発作)がみられるかどうかで、いくつかの診断的分類が試みられています。ですから、他ページに記載してあるパニック障害は不安障害に含まれるということになります。下に例としてICD-10(国際疾病分類)の広場恐怖(症)と全般性不安障害の診断ガイドラインをあげておきます。


<広場恐怖(症)の診断ガイドライン>
確定診断のためには以下のすべての基準が満たされなければならない。
(a)心理的症状あるいは自律神経症状は、不安の一次的発現でなければならず、妄想あるいは強迫的思考に対する二次的なものであってはならない。
(b)不安は、以下の状況のうち少なくとも2つに限定され(あるいは主に生じ)なければならない−雑踏,公衆便所,家から離れての旅行,および一人旅。
(c)恐怖症的な状況の回避が現に、あるいは以前から際立った特徴でなければならない。

<全般性不安障害の診断ガイドライン>
少なくとも数週、通常は数ヶ月、連続してほとんど毎日、不安の一次症状を示さなければならない。それらの症状は通常、以下の要素を含んでいなければならない。
(a)心配(将来の不幸に対する気がかり,「いらいら感」,集中困難など)
(b)運動性緊張(そわそわした落ち着きのなさ,筋緊張性頭痛,振戦,身震い,くつろげないこと)(c)自律神経症性過活動(頭のふらつき,発汗,頻脈あるいは呼吸促迫,心窩部不快,めまい,口渇など)
他の症状、とりわけ抑うつが一過性に(一度につき2,3日間)出現しても、主診断として全般性不安障害を除外することにはならないが、うつ病エピソード、恐怖症性障害、パニック障害、あるいは強迫性障害の診断基準を完全に満たしてはならない。

一見とても厳密な診断基準のようにみえますが、不安という定義困難な用語を使うためかどうしても曖昧なガイドラインとなってしまっています。特に後者の診断は、見方によれば多くの方があてはまってしまうのではないでしょうか?
精神科領域における診断の難しさ(不確かさ?)を痛感させられるところです。
ですから、「私は不安神経症です」「不安障害と診断されています」と患者さんが訴えられるとき、いつもどこかしっくりこない感じを受けてしまいます。そう思えば確かにそうだし、そんなことないと思えばそれも間違いではない、そんな感覚を抱えながら「診断にはあまりこだわらずに、少しでも楽に過ごせるようにしましょう」と話すことにしています。
「あなたの病名は不安障害です」と説明された時、少なくとも「私は病気だ」と深刻に考えすぎないでください。
不安があることが問題ではなくて、不安の程度が強くそのため日常生活に支障をきたしていることが問題なのです。

治療にはカウンセリング、薬物療法、認知療法、行動療法などをもちいます。また自分なりのリラクゼーション法を考えることもできるのではないでしょうか。

不安は未分化な怖れの感情であるとされています。とすれば、分化させること(具体化させること)で軽減をはかることが可能です。自分以外の誰かにとりとめもなく話してみること、時には独り言により感情を整理すること、なども有効な手段といえるでしょう。