認知療法

認知療法(cognitive therapy)はBeck.ATによって考案された心理療法です。最初はうつ病に対しての治療効果がみとめられ注目されましたが、その後不安障害(特にパニック障害)、摂食障害などの治療に応用され、現在ではストレスマネージメントの手段として幅広く活用されています。

人間は日々の生活の中で、様々な情報を受け取り、記憶として保存し、それを再構成し必要に応じて利用する、能動的な情報処理活動をおこなっています。認知とはこの情報処理活動の総称を意味しています。詳しくは’知表象(個人の頭に浮かぶ言語や視覚的イメージ)、認知過程(個人が外部からもしくは自分自身の記憶からの情報を処理する過程)、G知構造(過去の体験から体制化された個人特有のものの見方や考え方)の3つの概念の総称であるといえます。認知療法はこの認知表象に対してのアプローチをおこなうことで認知構造そのものの変化を促し、症状を誘発しているもしくは持続させている認知の歪(ひずみ)を修正していこうとする治療法です。

人は誰でも、日常生活の中で様々な出来事に遭遇し、その出来事について様々な考えやイメージを持ちます。それらの多くは瞬間的に脳裏に浮かぶ思考やイメージであって、しかもその人にとっては習慣化しているため特別には違和感を抱かないものです。この瞬間的な思考やイメージを自動思考(automatic thoughts)と呼びます。認知療法において問題とする自動思考はゝ甸囘な正当性にかける¬吉稟重に信じ込むと感情や行動の制御ができなくなるという特徴を持っています。例えば「私はなにをやってもうまくいかない」「私には何の取り柄もない」「わたしは誰とも仲良くなれない」「こんな辛いことが続くなら死んだ方がましだ」などです。これらの自動思考には客観的にみて正当性に欠けている部分があります。しかし当人にとっては繰り返しイメージされるものであり明確に意識されることのない(自動的に湧きあがる)思考なのです。こういった自動思考の論理的矛盾を認知の歪と呼びます。

認知の歪には、「いくつかの」失敗を額面どおりに評価できず「いつも」自分は失敗していると思い込んでしまう「過度の一般化」や「みんな自分のことを変わっていると思っている」と他人の考えを確かめることもなく相手の心を自分勝手に読み取り結論を急いでしまう「恣意的(独断的)推論」などがあります。つまり自動思考には「性格的なことだから...」「何もかも...」「みんな...」「何一つとして...」「全く...」「いつまでも...」といったある意味一方向的で柔軟さに欠ける部分が含まれます。

それでは何故そのような認知の歪を持つようになったのか?自動思考はその人の過去の体験から形作られたものです。正確にいえば瞬間的に湧きあがる自動思考の背景には過去の体験の積み重ねによって形成された何らかの前提(スキーマ)があるということになります。幼少時期に親からの拒否を受け続けると「自分はどんな場合であっても愛されることはない」といったスキーマが形成され、そのスキーマを背景とし、「誰とも仲良くなれない」「自分は変わっている」といった自動思考を繰り返すことになります。つまり過去の苦痛で不快な体験を精神的な破綻を繰り返さないように防衛機制を働かせ処理した結果、否定的なスキーマが形成され、その延長に歪をもった自動思考が出現するということになります。

具体的には
否定的な自動思考を把握し、これに対し客観性や合理性を持たせることができるように治療をすすめることになります。
(スキーマは深いレベルに存在するものですから、直接的にアプローチすることは困難ですが、あくまでもケースバイケースです。)
ここで重要な点は、否定的な自動思考が「悲しみ」「不安」「怒り」といった不快な感情と連動しているということです。
日常生活の中でその都度どんなことを考えていたのか振り返ることは、簡単ではありません。そこでまず身近な生活の中で不快な感情をともなった体験を記録してもらうことから始めます。次にその際に、「何故不快であったのか」「その時にはどんなことを考えたのか」を記録します。「考え」とはつまり「心に浮かんだこと」そのままであり、振り返っての解釈はとりあえず省きます。(記録にあたっては、感情の不快さの度合いを0〜100で、自動思考に対しての確信度も0〜100で記入しておきます)この結果をもとに第三者(治療者)との話し合いを行い、頻回に出現する自動思考をつきとめます。そしてこの自動思考にみられる歪を見出し修正していきます。

治療にはある程度の内省力が必要となりますし、自分の不快な体験を振り返り客観視するだけの精神的な強さも求められます。また認知の歪を修正していくための粘り強さも重要です。(一度の気付きだけで、認知の歪を修正することは困難です。日常生活の中に繰り返しあらわれる否定的な自動思考を共通したスキーマのうえに捉えることではじめて、認知の歪が少しずつ変化していくのです)

認知療法は多くの場合行動療法と連動します。大切なのは認知パターンの変化が症状の軽減につながり、日常生活にプラスの方向性をもたらすことです。