漢方薬についての話

できるだけ薬は飲みたくないが漢方薬なら安心、という声をよく耳にします。心療内科や精神科で対応すべき症状に対し漢方薬はどの程度有効なものなのでしょうか。一般に使われることの多い向精神薬に比べて、副作用が少なく安全な薬と考えてよいのでしょうか。そのあたりについて簡単にまとめておきます。

<漢方治療とは>
漢方治療はそれぞれの病態について、精神愁訴・身体愁訴・身体所見(脈・舌・腹)の三点から総合的に理解し、治療していくものです。ですから脳に直接作用し特定の病態をターゲットにする向精神薬とは、かなり質の異なるものといえます。

漢方治療における病態把握は、陰陽・虚実・表裏・寒熱・気血水・臓腑経絡・三焦といった概念を用いて行ないます。
それぞれの概念において、病態を捉え、その組み合わせによりお薬を選択していくことになりますが、中でも陰陽・虚実・表裏・寒熱といった概念が重要であるように思われます。

(陰陽)
陰とは
冷えている状態。
顔や患部が赤くなく、蒼白で、症状が表に現われにくい状態。
新陳代謝の低下している状態。

陽とは
熱のある状態。
顔や患部が赤みを帯び、症状が表に現われやすい状態。
新陳代謝の亢進している状態。

(虚実)
虚とは
闘病能力の低下した状態。
体力のない状態。
体格は貧弱で、腹力が弱く、胃腸も弱くて下痢しやすく疲れやすい状態。

実とは
病毒の充満した状態。
闘病反応を強く示し、体力の強い人にみられる状態。
体格はがっしりとしていて、腹力があり、胃腸が丈夫で疲れにくい状態。

(表裏)
人を輪切りにした状態で、体表部・中間部・体深部に分け、それぞれの部位が病的状態になった時の症候を表証・半表半裏証・裏証と考える。

(寒熱)
陰陽とほぼ同義。
陰陽は全体を表すのに対し、寒熱は局所を表すとされる。

(気血水)
気:働きがあって形のないもの。血や水の作用を調整するもの。
血:血液の流れ。
水:血液以外の体液の総称

(臓腑経絡)
臓腑とは五臓六腑の機能、経絡とは気血の運行する経路を指す。

(三焦)
身体を上下方向の三部位に分け、上焦・中焦・下焦と呼ぶ。
上焦:横隔膜より上の部分。
中焦:臍より上、横隔膜より下の部分。
下焦:臍より下の部分。


<漢方処方にあたっての診察>
以下の四診によって行ないます。
)梢
視診によっておこなう。
肥痩、顔色、表情、動作についての観察と舌診。
¬篆
どのような症状があるのか、詳しく聞くこと。
J洪
話し声・咳の状態、呼吸の状態などについての観察。
だ攷
脈診と腹診。

<副作用について>
漢方に副作用はないというのは誤りですが、西洋薬に比べ副作用が少ないと考えて差し支えないでしょう。
小柴胡湯による間質性肺炎が報告されて以来、実は重篤な副作用があるのではないかという印象をもたれている方も多いようですが、その出現頻度は極めて少ないもののようです。
下痢や胃部膨満感、皮疹(アレルギー)などは実際に経験するところですが、中止もしくは変薬にて十分対処可能です。

<心療内科での適応は?>
心療内科では心理社会的ストレッサーによる生体反応(身体反応および情動反応)を扱うことが多いわけですが、漢方では急性の生体反応のうち、腹部膨満感、しびれ感などの身体反応およびイライラ感を伴った抑うつ感などの情動反応は気滞、とくに肝気うっ血とされ、柴胡、香附子、蘇葉などを含む柴胡剤や半夏厚朴湯が有効とされています。
慢性的な生体反応のうち、比較的体力のある人がストレス状況下でイライラして血圧が上ったり、頭痛に苦しむような場合には、これを熱証と考え清熱作用のある黄連解毒湯、三黄瀉心湯などを使います。
逆に体力が低下し、消耗した状態の人については、これを気虚の状態と考え、人参・黄耆・甘草などが含まれる四君子湯・六君子湯・補中益気湯などを用います。

<精神科での適応は?>
急性期の病状にたいしての適応は難しいと考えていますが、慢性的な不安感や抑うつ感(特に倦怠感が強い場合)に対しては効果を発揮するものもあるようです。

<実際の病状への適応>
機タ牲仂(あいまいな概念で現在では正確な呼称ではありません。いわゆる不安性の障害と考えてください)
実証の方には柴胡加竜骨牡蛎湯、虚証の方には桂枝骨牡蛎湯、イライラが強い方には黄連解毒湯などを用いています。
供ネ泙Δ直態
半夏厚朴湯、柴胡桂枝乾姜湯などを用いています。体力が低下し倦怠感が強い場合には、十全大補湯、補中益気湯などが有効な場合があります。
掘ス糠期障害
加味逍遥散、湯経湯、柴胡桂枝乾姜湯などを用いていますが、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、なども有効であるといわれています。
検タ搬良集柔自律神経機能不全
胃腸機能低下・軟便・下痢などに真武湯を、残尿感・頻尿・口渇などに清心蓮子飲を用います。

漢方治療について完成されたパターンはありません。漢方だけで治療することにこだわらず、西洋薬の使用量を少しでも減らしていくために、もしくは西洋医学的にはいわゆる「匙を投げられた」状態である場合に、東洋医学的な視点を持つことが大切であると考えています。

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