強迫性障害

自分では「ばかばかしい」「不合理だ」と思う観念(強迫観念)にとらわれそこから抜け出せず苦悩したり、何度も同じ行為(強迫行為)を繰り返し「意味がない」「無駄である」と苦しみながらも止めることのできない病態を特徴とする障害です。強迫観念や強迫行為には様々なものがありますが、代表的な例をあげれば、「ばい菌がついたのではないかとの強迫観念に苦しみ何度も手を洗わないと気がすまなくなる」「鍵を閉め忘れたのではないかとの思いにとらわれ外出しても確認のため何度も家に戻ってしまう」などの症状があります。”少し気になる” ”1,2度確認する”程度であれば病的とはいえませんが”始終気になる” ”何度も確認する”ということになれば、日常生活に支障をきたすことになりますし、精神的にもかなり追い詰められた状況となります。このような場合にはやはり専門機関で相談されたほうがよいでしょう。

強迫性障害の成因



 初めて強迫症の臨床像を報告し、その成因について精神力動的立場での仮説を提示したのは、かの有名なFreud.Sです。その後精神分析の各派から様々な意見が提唱され未だに統一した見解は得られていませんが、自立と依存の葛藤の中での思考と情動の乖離が共通したテーマであるように思えます。このことは「思春期に強迫症状がみとめられることが多い」という臨床像を裏付けるものではあります。
 しかし一方では、昨今の医学の進歩により生物学的な視点で強迫症状を捉えようとする立場がみられるようになってきています。こちらの方は、ある特定の作用機序をもった薬(下記参照)に強迫症状を軽減させる効果が認められることで、かなり信憑性が高いように思われています。現在のところは、PETやSPECTといった脳機能を評価する画像検査の結果から、前頭葉皮質−線状体−視床の連絡に何らかの問題があるのだろうとの推測がなされている段階ですが、今後様々なことがわかってくるのではないかと考えられます。
 

強迫性障害の治療

治療としては様々なアプローチが試みられてきましたが、最近ではclomipramineやSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)を使っての薬物療法が注目を集めています。元々強迫性障害の患者さんには十分な内省力があり、それゆえに苦しんでいるという一面もありますので、深く内省を促すような精神療法は効果が乏しいといわれています。
むしろ薬物療法と併用して用いられるのは、行動療法です。強迫性障害に有効とされる行動療法は曝露反応妨害法(Exposure & Response Prevention)とよばれるもので、50%以上の改善率が認められるとの報告があります。

曝露反応妨害法とは

迫症状をきたしている外的な状況、あるいは自生する内的な観念に対面(曝露)しながら、そこでおこる強迫衝動や 不安感、不快感を抱えながらも強迫行為をあえてしない(反応妨害)ですませることを繰り返し、強迫行為をしなくても大きな問題はおこらないということに慣れていくなかで、強迫症状の軽減をはかる治療法。

たとえば手洗い強迫のある患者さんであれば、「ばい菌で汚れている」と感じている場所にあえて触れてもらうことで強迫観念に対面させておきながら、不安感を消し去るための手洗い行動という手段をとらないように目標セッティングしていくことになります。

多くの場合は「手洗い行為をしなくても大丈夫」ということを頭では理解しているわけで、とても当たり前すぎる治療法のように思えますが、その意義は頭(思考)でわかっていることを感情面も含め実感していくことにあります。


治療の性格上、入院という治療環境が望まれますが、症状が軽い場合には外来での治療導入も可能です。


−コメント−

 強迫性障害は確かに深刻な病態であると考えられますが、ものごとへの”こだわり”や”とらわれ”は誰しもが程度の差はあれ持っているものです。「自分のしてしまったことに後悔する」「病気ではないかと過度に心配する」などは日常的なことですが、これらはよく考えれば強迫観念に近いものがあります。したがって強迫性障害の病態を探ることは、人間の煩悩について考えることにもなります。(実際にうつ病や摂食障害、心気症などとの関連が指摘されるようになってきています。)今後この障害についての研究が進むことで、“心の悩み”についての新たな見解が得られるかもしれません。

 強迫性障害は比較的まれな疾患と考えられていましたが、最近の研究では1%〜3%の発症率であると報告されています。
一般に強迫性障害の患者さんは「自分で解決しよう」と考え「人にはさとられまい」と症状をかくす傾向があるといわれています。そのために長期間の苦しみを抱え社会生活に支障をきたしている場合も多いように思われます。昨今「うつ病」や「パニック障害」の情報は数多く、「受診しやすさ」も増したように思えますが、強迫症状に悩んでおられる方にとって病院はまだまだ敷居が高いのかもしれません。病院には当然のことながら守秘義務があります。おひとりで悩まずに一度お近くの専門医にご相談ください。