睡眠障害

「眠れない」と「眠りすぎてしまう」は全く正反対の訴えですが、診断的にはいずれも睡眠障害の中に分類されます。一般には、不眠症=睡眠障害と考えられることが多く、「眠りすぎ」は気持ちの問題と簡単に片付けられてしまうことが多いように思いますが、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの疾患が問題視される中で、「過眠」もまた、治療対象となってきています。
 いうまでもなく、人間にとって睡眠はとても重要なものです。人生の3分の1は眠って過ごすということを考えれば、ただの休息と簡単に考えてしまうわけにはいかないでしょう。眠れなければ日常生活に様々な支障(注意・集中困難,意欲低下,倦怠感,頭痛やめまいなどの身体症状,免疫力の低下など)をきたすことになりますし、仕事や学業に大きな影響を及ぼしてしまいます。眠りすぎても同様のことがおこります。
 現在、睡眠の問題(睡眠障害)はどのように考えられ、どんな治療が行なわれているのでしょうか?
簡単にまとめておきますので、参考にしてください。


睡眠障害の国際分類

症状の特徴・病因・病態生理に基づいて、約90種類もの分類がなされていますが、大きく分けると以下の3分類となります。
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下位項目として‘皸性睡眠障害(intrinsic sleep disorders),外因性睡眠障害(extrinsic sleep disorders)3菊リズム性睡眠障害(circadian rhythm sleep disorders)に分類されます

内因性睡眠障害
精神生理的不眠症(神経質性不眠症,一次性不眠症),ナルコレプシー,周期性傾眠症,睡眠時無呼吸症候群などが含まれます。
外因性睡眠障害
覚醒作用を持っている薬物や嗜好品の濫用によるもの、睡眠薬やアルコールなど中枢神経系への抑制作用を持つ薬物の急激な中断に伴うもの(反跳性不眠)などがあります。
概日リズム性睡眠障害
いわゆる体内時計の問題による睡眠障害のことです。人間の一日のリズム(概日リズム=サーカディアン・リズム)は約25時間〜26時間であるといわれています。健康な状態であれば、このリズムを外界の変化(明暗)や時刻により、毎日1,2時間ずつ前進させることで、24時間周期の睡眠・覚醒リズムを生み出しているわけですが、リズム調節がうまくいかなくなった場合、睡眠時間が後退したり前進したり、はたまた断続的な睡眠になったりといった問題が生じてきます。

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悪夢(nightmare)、夢中遊行、REM睡眠関連異常行動、レストレスレッグズ症候群などが含まれます。睡眠そのものの問題ではなく、睡眠に伴っておこってくる様々な問題がここに分類されます。

*他に児童期に好発する睡眠時驚愕症(夜驚症)などがあります。
*悪夢は幼児期から学童期にかけ高頻度に出現し、その後加齢とともに減少していくといわれています。

掘テ皺福精神科的障害に伴う睡眠障害
(sleep disorders associated with medical/psychiatric disorders)
身体疾患による疼痛やかゆみ、頻尿、呼吸困難などの問題のため二次的に引き起こされる睡眠障害、または精神疾患(うつ病・痴呆・精神分裂病などの疾患)においてみとめられる睡眠異常がここに分類されます。




睡眠障害の治療

治療に先立って重要なことは、上記分類のどこにあてはまる睡眠障害であるかということです。多くの場合、治療には「睡眠薬」が使われることになりますが、単に不足した睡眠を補うためなのか、睡眠リズムを整えるためなのか、精神科的症状の増悪を避けるためなのか、目的によっての使い分けが必要となります。
またリズム障害が疑われる場合、睡眠記録をとってみることが治療の前提となりますし、睡眠時無呼吸症候群では夜間睡眠ポリグラフィーなどの検査を要することになり、治療法も異なっったものとなります。
最近のtopicsとしてはビタミンB12療法や高照度光療法などがあげられます。




用語解説

*ナルコレプシー
昼間に突然眠り込んでしまう睡眠発作と、笑い、驚きなどの情動によって誘発される脱力発作を主症状とする慢性の睡眠障害。恐ろしい内容の入眠時幻覚を伴うことが多い。一般人口中の発現頻度は0.04%〜0.1%と推定されている。染色体レベルでの遺伝性が報告され、注目を浴びている。治療には対症療法としてのmethylphenidate(リタリン)が使用されるが、安易に処方されるべき薬ではないため、診断には慎重さを要する。
小児期の発症は少ないが、9〜10歳頃より急増し、12〜16歳に発症のピークがある。性差は認められない。
他に、夜間睡眠が安定せずしばしば覚醒するなどの特徴もある。

*睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸とは睡眠中にみられる10秒以上の呼吸停止で、一晩の睡眠中に無呼吸が30回以上、あるいは1時間あたりの無呼吸回数(無呼吸指数:AI)が5回以上の場合、睡眠時無呼吸症候群と診断される。上気道閉塞が原因の「閉塞型」と中枢性の呼吸停止が原因の「非閉塞型」に分けられるが、前者の方が多い。夜間の低酸素血症による身体合併症や日中の強い眠気による事故などの問題があり、最近特に注目されている。
閉塞型の治療には、経鼻的持続陽圧呼吸(nasal CPAP:無呼吸を感知し経鼻的に陽圧の気流を気道に通し、閉塞を解除する))に保険適応がある。毎晩の器具装着が必要となるため治療導入が困難であるが、睡眠状況の改善による日中の爽快感確保や装置への慣れにより、しばらく継続できさえすれば有効な治療手段となる。
またacetazolamide(ダイアモックス)は、無呼吸による呼吸性アシドーシス(二酸化炭素がたまり、血液が酸性に偏る)の改善に有効な薬剤として保険適応をもっている。

*夢中遊行症(sleep walking)

深い睡眠ステージから急激に目覚めた場合、もろうとした意識状態でおこる異常行動。4歳から10歳程度の子供に多い。

REM睡眠関連異常行動
睡眠には深さに応じた4段階のステージに加え、REM期と呼ばれる独特の睡眠相がある。REMとはRapid Eye Movementの略語で、このステージでは眼球が急速な動きをしていることが特徴とされている。このREM期においては、脳波上の比較的浅い睡眠状態と、筋電図上での骨格筋の緊張低下が観察されている。つまり、「頭はそれなりに働いているが体は寝ている状態」と考えられている。
このような状態で、骨格筋への抑制が、何らかの機序で十分に行なわれなくなった場合、激しい寝言や上下肢の激しい動き(殴る・蹴る・歩き回るなど)がみられることがあり、REM睡眠関連異常行動と診断される。治療にはclonazepam(ランドセン・リボトリール)やimipramine(トフラニール)などが用いられるが、短時間型の睡眠薬の使用で行動異常がみられている場合も多いため、睡眠薬の変更で改善する場合もある。
ちなみに、REM期に夢をみるというのは有名な話だが、nonREM期にも夢はみているというのが一般的な見解である。


−コメント−
睡眠の障害は比較的軽症と考えられがちですが、睡眠が人間にとって必須のものである以上、放置すれば多大な問題を引き起こすことになります。安易な睡眠薬の使用は慎むべきですが、「薬の代わりに酒を飲んで寝る」というのは依存性や耐性の問題があり、全くおすすめできません。またカフェインの取り過ぎや寝る前の熱いシャワーが入眠の妨げになっている場合もありますので、意外と身近なところに解決法が転がっていることもあるのではないでしょうか。さらには「たくさん寝ていればそれでいい」というわけにもいきません。日中の倦怠感が強い場合には「睡眠の質」について見つめなおしてみることも大切です。


「人生の3分の1が睡眠である」ことを考えれば、睡眠に秘められた可能性は大きく広がります。
催眠や夢分析、現在では精神医学の本流から外れた感のある(関係者の方には申し訳ありません)治療法が、再度見直されていく可能性も十分あるように思います。睡眠のことを考えるとき、深海に秘められた謎に近いものを感じます。
「人は何故眠るのか?」という問いに明快な答えはまだ用意されていないのです。